原発ゼロ・自然エネルギー推進会議の情報ライブラリです。

高浜原発運転差し止め仮処分決定を受けて

一般社団法人 自然エネルギー推進会議
代表理事 細川護熙

 

  1. 関西電力高浜原子力発電所3号機4号機に対して大津地方裁判所は、稼働中の原発に対しては初めて2基の運転を差し止める仮処分決定を出した。
  2. 原子力発電所は一旦過酷事故を起こすとその影響は広範囲に及ぶ。立地自治体の福井県ではなく、隣接する滋賀県の住民29人の訴えを認めたことは当然である。
  3. 政府はこの決定を受けても再稼働の方針を変えていないが、立地自治体はもとより、近隣自治体も含めた原発の安全性に対する不安を真摯に受け止めるべきであり、猛省を促したい。
  4. 私どもはこれからも原子力発電に対する懸念を持つ人たちと連帯し、「原発ゼロ」と「自然エネルギーの普及促進」をよりいっそう力強くうったえてまいりたい。

鎌田實さんインタビュー要旨

鎌田實氏(諏訪中央病院名誉院長・作家)

 事故後8日目に福島へ赴いた医師団

香山:鎌田さんは、チェルノブイリの事故の後に医師団を派遣され、イラクにも医師団を送る活動をされ、今回、福島の原発事故の後にもいろいろな活動をされている。福島原発事故後の活動に関して、ちょっと説明していただきたい。

鎌田:福島原発の事後後、30キロゾーンに入る初めての医師団の一人として現地に赴いた。原発から23キロの南相馬市立総合病院を核に活動した。桜井市長にも連絡したら、「みんな逃げるばかりで誰も来てくれない、物資運搬を頼んでも誰も来てくれない」と言われ、薬を車いっぱい持って入った。事故後8日目だった。

香山:医療面で、チェルノブイリの事故の経験は生かされたと思うか?

鎌田:不十分だったと思う。今、子どもたちの甲状腺がんが、確定している人だけで50数名。おそらく100名近い子どもが甲状腺がんになっている。多くの責任ある立場の人たちは、福島の原発事故との因果関係が証明されないと発言しているが、あるかもしれないと思って慎重にみるのが医療の本当の姿勢だと思っている。I-131という放射性ヨウ素が甲状腺がんを誘発するわけだが、原発の事故後、I-131 の測定がきっちり行われず、I-131がどれくらい地域に降り注いだかわからない。半減期が早いので、1か月もたつと測定がほとんど不可能になっていく。そういう意味では、チェルノブイリの原発事故のことを、きちっと学習していなかったのではないか。

ベラルーシやウクライナの方が 徹底的に子どもを守ろうとしていた

香山:チェルノブイリでは、避難対象区域はどのように決定されたのか?

鎌田:まず、30キロゾーンは住んではいけない地域。1986年の事故発生から28年たった今でも、居住できない。年間5ミリシーベルト以上で強制移住区域にし、1~5ミリシーベルトのところで、移住権を与えた。移住したい人には新しい土地と家を与え、どうしても住み続けなくてはならない人には、放射能の見える化と健診と保養を徹底的にする条件で居住許可を与えている。年間0.5~1ミリシーベルトは、厳重放射線管理区域としている。

日本でも、年間1ミリシーベルトにこだわっていたムードが強かったが、ここのところ、20ミリシーベルトまでいいじゃないかというムードで、20ミリシーベルト以下は避難指示解除準備区域という分類をしている。

私は100回チェルノブイリに医師団を出し、14億円のお金を集めて、放射能汚染地域の子どもを救う活動をしてきた。去年の12月にウクライナが原発事故後25年を記念して総括集を出した。その中で、子どもの貧血が40数パーセントいるとか、子どもの慢性疾患が70数パーセントいるなど、とてつもない数字をウクライナの医師団がまとめている。その一番中心的な役割を果たしたドクターを私が訪ねた時に、「全てチェルノブイリ原発事故が起因しているわけではない。同じ頃に国の形が変わってしまい、子たちに栄養を与えられず、何割かは栄養の問題もある。でも、原発事故がそれなりに関係していたはずだ」と。

先生は子どもたちにどういう注意を払ってきたか尋ねたら、「自然放射線以外に1ミリシーベルトを絶対に超えないように注意をしてきた」と。日本よりも貧しいベラルーシ共和国やウクライナ共和国の方が、徹底して子どもを守ろうとしていたのではないか。福島の方があやふやにしだして、臭いものにふたをしながら、「まあまあ、いいんじゃないの?」というムードになりだしているのは、まずいのではないか。

香山:チェルノブイリ25周年として、精神医学の世界でも欧米のいくつかのジャーナルが特集をしていた。事故に直接かかわった人でなくても、うつ病、アルコール依存、自殺などが増えているのと、事故後に生まれた子でも、精神的に不安定になっている子がいると。福島原発が起きる前の東電の白書には、「だから心理的な問題である。原発は安全だ」と記されていた。でも、私は精神科医としてそうではないと思う。母親が不安で、養育するにもいろいろと影響が出ているので、子どもたちが心の問題をもつことがある。これは事故があったからこその問題で、「だから放射能は怖くない」という論理にはならない。

鎌田:去年12月に、ウクライナのナロージチという強制移住区域の地区病院を訪ね、副院長と話をした。先生は33歳でお子さんは7歳。「医師でよくわかっているのに、よく自分の子どもと一緒にこの強制移住地域に居住していますね」と尋ねたら、かつてものすごい汚染地域だったが、今はどこを計っても値がいいと言う。実際、0.1マイクロシーベルト/時くらいだった。「子どもと親が一緒にいることを選択した」と。また、「こどもを3回保養に出している。1回は国のお金で24日間。あと2回は自分のお金で臨海学校に送りこみ、安全な地域で安全なものを食べさせた。そのたびに健康診断を受けさせ、体内被曝を計っている。子どもが食べるものに関しては、放射線測定をし、放射能の見える化をしている」と。ものすごく徹底している。

キーワードは「見える化」「健診」「保養」

香山:「見える化」「健診」「保養」という3つの点をおっしゃった。「見える化」とは、内部被ばくも含めて、放射線量をきちっと測定することですね。

鎌田:はい、体内被曝も計り、食品の見える化もするということ。

「健診」とは、甲状腺を含めた一般の健診。

香山:「保養」は?

鎌田:子どもが万一体内被曝をしたとしても、子どもの新陳代謝はすごく速いので、25日くらい安全なものを完璧に食べていれば、きれいになると言われている。香山さんだったら2か月、僕だったら3か月くらいかかるところだが。ベラルーシもウクライナも、初めの頃は年に2回、今では年に1回、保養を行っている。しかし、24日間出し続けるのは、日本ではなかなか行われていない。僕たちも、今年も音楽合宿という形で、郡山のジュニアオーケストラの子どもたちに長野県に来てもらった。富士の裾野で行う英語合宿にも、お金を投入した。

このように、「見える化」「健診」「保養」を呼びかけているが、大人が「もういいんじゃない?」というムードになっているのが心配だ。

香山:この3つは、政策としてきちんと行われてはいないということか?

鎌田:行政の中では、たとえば子どもたちの体内被曝を年2回計ることをルール化してる。でも、まったくしないとか、もう大丈夫なんだということを強く繰り返している市町村も出ている。

ほどほどの技術を上手に使おう

香山:チェルノブイリと福島を見てきて、鎌田さんはどう思われるか?

鎌田:チェルノブイリ原子力発電所には何度も行った。5千トンのコンクリートと鉛でできた石館で固めてあるが、27年経ってひび割れしてきている。当然、固める職人も被曝しないようにするので、粗い仕事になってしまう。その放射能がいまだに出ていて、50メートルくらい近づいて測定したら、18マイクロシーベルト/時であった。27年経っているのに、すごく高い。

今、EUも日本もお金を出して、原発の隣に巨大なドームをつくっている。出来上がったら、今の石館の上にお椀のようにかぶせる計画だ。責任者に「どれくらいもつの?」と尋ねると、「50年から、せいぜい100年」と言われた。その後、また放射能が漏れてくる。メルトダウンした燃料棒を取り出せるのか聞いたら、おそらく取り出せないだろうと。「プルトニウムを管理するには10万年かかりますよね。その間に何回ドームを作り直すのですか」と聞いたら、「途方もない回数」と。

事故が起きない状態でも、使用済み核燃料の最終処分をどうするか、10年前からまったく決まらない状態であるのに、ましてや、メルトダウンを起こしている福島第一原発では…。取り出せると政府は言っているが、たぶん取り出せないだろう。日本の技術で万が一取り出せたとしても、溶けてしまった燃料棒を10万年管理してくれる県がどこにあるのか。絶対にない。

僕たちは、途方もないことをやり、事故を起こしてしまったのだ。

香山:未来にもっとすごい技術ができるかも、とか、未来であれば300年もつドームができるかも、とか、ツケを希望的に託すしかない状態ですね。

鎌田:そういうものを加算していったら、原発のコストはものすごく高い。それを今は計算外にしているだけ。やはり、原発の在り方を考えなくてはいけない。完全にストップをかけ、今後のエネルギー問題をむしろ前向きに考えるべき。世界が間違いなくその方向に向かおうとしているのに、日本が古いスタイルでエネルギー確保の方法を考えているのは、とんでもないことである。

新しいエネルギー確保の方法にお金をかけ、福島の人の雇用にもつながるように、福島に拠点を置き、福島の再生を考えていくべきではないか。そうすれば、世界から注目されて、世界が福島に学べることになる。原発のない地球を前提に、地球全体のエネルギー問題を解決していく方が、精神衛生上もいいし、日本経済にとっても前向きな感じがする。

香山:それを成し遂げたら、世界の評価もかわるかもしれない。

ところで、医学も日進月歩だが、鎌田さんが「がんばらない」「やりすぎはいけない」というメッセージを発信されてきたことも功を奏して、最近ようやく、過剰な医療は控え、特に終末期にはやれることも敢えてやらないドクターも増えている。でも技術に関しては、一度できるようになったことを手放したり撤退することに対して、心理的に「敗北じゃないか」「後退じゃないか」という抵抗があるようだ。

鎌田:一番大事なのは、人間が幸せに生きるということで、技術はほどほどに利用するべき。日本の経済発展を支えてきたのは技術であるが、それで本当に日本人は幸せになれたのか。一部の人は成功して、虚像の中で幸せを得たように見えるが、その人たちでさえ本当に幸せではないのではないか。技術は否定せず、ほどほどの技術を上手に使いながら、心を持った生き物である僕たち人間がどう生きたらいいのか、人間と人間との関係で、お互いが少しずつ幸せになっていくことを通して、もう少し住みやすい社会をつくれるのではないか。

発起人・菅原文太メッセージ

メッセージ

 終わりの見えない福島原発の大事故が起き、神話的な信仰を持って原発の安全性が語られた時代が終わったことは誰の眼にも明らかです。しかし、50年間信じられてきた原発エネルギーからの転換は容易なことではありません。その困難さは都知事選の結果で良くわかったところです。

 大事故の後始末のために電気代値上げだけでは足りず、巨額の税金が投入されており、さらに廃炉に向けてはさらに税金が使われます。多くの人は、このまま恐々ながら原発を使い続ける方が安上がりだと誤解している人もいるかもしれません。しかしその認識は誤っているのではないでしょうか。どんな機械でも故障し修理が必要になります。原発の故障が健康生命の危機と紙一重であることは、原発立地に住んでおられる方々は日頃肌身に感じておられると思います。また発電設備の使用年限が来たら、廃炉と新設に再び巨額の金が要ります。巨大赤字を抱えた日本にそんな国力があると思いますか。人口減少時代の日本は、原発であろうが自然エネルギー利用であろうが、徐々に電力消費は減ってゆきます。それは電力会社の収入が減ることを意味し、経済面での国力は落ちるということです。だから現政権は、原発の輸出などと言い出したのでしょう。

 原子力エネルギーに代わる代替エネルギーを語る前に、私たちが先ず語らなければならないのは、便利さと豊かさを極限まで追い求めてきた高度経済成長時代の意識からの私たち自身の意識の転換です。暑いと言っては冷房、寒いと言っては暖房をつけ、どこもかしこも明るく電気がついている便利さ快適さから、少し辛抱する暮らしをするだけでも原発の必要性はぐんと減ります。LED電球が誰でも買える価格になり、公共施設はすべてLEDになるだけでも違います。代替エネルギーの開発は、そのような国民の意識の転換と軌道を一つにしてゆくことが大切です。脱原発社会へ向けての車の両輪です。

 私は都知事選に続き、細川さん小泉さんの提唱する脱原発社会という社会全体のパラダイムチェンジ運動を引き続き支持し、発起人を引き受けました。

 

菅原文太